外国での暮らし

長い帰り道

09/14/2007

ここは中国で
わたしは日本人で
あなたはもうすぐイスラエルで

 

へたくそな中国語は聞き飽きた
無意味なフランス語は淡い差し色みたいに私たちを彩って
易しい英語を選ぶあなたの優しさで私は満たされて
ひとつづつ増える私の大切な日本語を挟んで並び歩き
胸を押さえて祝い囁く今夜のヘブライ語

言葉というのは何て
尊くて美しくて私たちを繋ぐ橋で糸

 

手ぶらの帰り道
携帯も財布ももってない私たちは
果てしなく遠い場所から手をつないで歩くしかなかった

てくてくてくてく
同じ歩幅で同じ速度で並び歩く
わたしは大体ゆっくりで
あなたは殆どゆっくりで
たまに手を離したりもう一度寄り添ったり
喧嘩したり仲直りしたりしながら並び歩く

てくてくてくてく
喉がからからに乾いても
途中ふたりで寄り道して踊っても
疲れてくたくたでも
てくてくてくてく並び歩く

知っている道から知らない道から
へたくそな言葉たちを順に辿った道へ置き去りにして
チルチルとミチルみたいに青い鳥を探す

何も変わらないように
何かが変わってゆくように
一歩一歩歩重ねる度にあなたが近くなるような
遠くなるような

 

ここは中国で
私は日本人で
あなたはもうじきイスラエルで
見慣れた風景も日常も
二人でいる時間もあたりまえにここにあるのに
あたりまえに消えてなくなるのだろうか

 

長い長い帰り道
数メートル離れてあなたの後ろを歩く
夜中の湿った上海は
もはや私たちの町
てくてくてくてく

あなたの汗ばんだブルーのシャツと
解けた長い髪と細長い背中を

 

いつまでも眺めていられたらいいのに。

 

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