ここは中国で
わたしは日本人で
あなたはもうすぐイスラエルで
へたくそな中国語は聞き飽きた
無意味なフランス語は淡い差し色みたいに私たちを彩って
易しい英語を選ぶあなたの優しさで私は満たされて
ひとつづつ増える私の大切な日本語を挟んで並び歩き
胸を押さえて祝い囁く今夜のヘブライ語
言葉というのは何て
尊くて美しくて私たちを繋ぐ橋で糸
手ぶらの帰り道
携帯も財布ももってない私たちは
果てしなく遠い場所から手をつないで歩くしかなかった
てくてくてくてく
同じ歩幅で同じ速度で並び歩く
わたしは大体ゆっくりで
あなたは殆どゆっくりで
たまに手を離したりもう一度寄り添ったり
喧嘩したり仲直りしたりしながら並び歩く
てくてくてくてく
喉がからからに乾いても
途中ふたりで寄り道して踊っても
疲れてくたくたでも
てくてくてくてく並び歩く
知っている道から知らない道から
へたくそな言葉たちを順に辿った道へ置き去りにして
チルチルとミチルみたいに青い鳥を探す
何も変わらないように
何かが変わってゆくように
一歩一歩歩重ねる度にあなたが近くなるような
遠くなるような
ここは中国で
私は日本人で
あなたはもうじきイスラエルで
見慣れた風景も日常も
二人でいる時間もあたりまえにここにあるのに
あたりまえに消えてなくなるのだろうか
長い長い帰り道
数メートル離れてあなたの後ろを歩く
夜中の湿った上海は
もはや私たちの町
てくてくてくてく
あなたの汗ばんだブルーのシャツと
解けた長い髪と細長い背中を
いつまでも眺めていられたらいいのに。