パプーというのはギリシャ語でおじいちゃんという意味らしい。
恋人が外国に行ったのち、その人の実家になぜか私はいた。
あまりに可愛い呼び名をわたしは即刻気に入って、それからというもの
わたしも彼をパプーと呼ぶ事になる。
そしてわたしがパプーと呼ぶそのひとは、外国にいった恋人の実父である。
パプーは心理学者で、おそらく酷く偏屈で頑固で、
絵に描いたような厳しい父親であり、もう70歳を超える今でも
日々研究熱心で心打つものがある。
パプーはよく働く。賢くて研究熱心できっと若い頃から勉強家で、
ずっとずっとそうやって来たんだろう。
家中に溢れ変える心理学の本達と、未だ朝早くからパソコンにむかって記しつづける姿や、
訪れる人々にレクチャーするドクターは、
家では犬に餌をやったり、せっせとゴミ箱の袋を替えて、奥さんにコキ使われる
やっぱりよく働くドクターなのである。
わたしがここに来る前、一足先にアメリカに着いた彼氏とテレビ電話をしたとき、
迎えにきていたパプーはわたしを初めて画面上で見てひとこと、
「かあさんみたいだな」と言った。
どうひっくりかえっても、50近く年が離れ、
さらに髪の色も国籍も真逆の私が
パプーの奥さんに似ているとは未だ、未だ考え難いが、
そのときとにかくあまりに驚きつつ嬉しかったのを覚えている。
それから初対面をし、がちがちだった緊張は徐々にほどけ、
最初に聞かされていた厳格な心理学者の父親という印象から
孫を溺愛するただの優しいおじいちゃんに変わった。
散らかりの根源でもあり親玉でもあるパプーだが、
私がキッチンで洗い物やら片付けをしていると、のっそりやってきて
こっそり手伝ってくれたりアイスクリームをすすめてくれたりする。
パプーは体に悪い菓子が好きである。子供達がオーガニックだかベジタリアンだかの
超健康志向に対し、パプーは何でも食べれば化学物質だけで作ったようなお菓子とか
スイーツとかをこよなく愛している。それで息子達にいつも怒られている。
パプーの親友は、孫のガブラで溺愛していて
ママには内緒でな、と言いつつキャンディとかアイスとかクッキーとかを与えて
テレビを見させているはずだ。
パプーはきっと人々に理解されない事が多いが、本当は愛情深くて
ぱちっと投げるウインクが可愛い、そんなパプーが私は大好きである。
わたしは訛りのあるパプーの英語をまだ全部聞き取る事ができず、
更に専門的な難しい哲学的な話題には殆ど理解できないでいるが、
難しいはなしをする前に、これ以上モノを増やすなと一言注意しなくては。
パプー!
”お皿とナイフとベーグルは車の中に放置しないこと。”
今日もまたベーグル片手に現れるパプー。
パプー
関係 彼氏の実父