なんで外国に行くのかなんて質問を
そんなもの答えはひとつしかないと思ったね
だって雨の中で傘をささずに歩いてもいいからだよ
それだけだよらくちんじゃないか
地下鉄の駅をひとつもふたつも飛ばしては歩く
ポケットに手をつっこんだまま下向いて
そりゃもうだらだら早足で道路の番号を順に数えながら
そりゃもう適当にそのへんに持っていた何でも頭の上に乗せて
地下鉄の駅をみっつもよっつも飛ばしては歩く
傘をささなくてもいいっていうのは何てらくちんじゃないか
やりたい仕事が見つかったのはニューヨークだった
行くことに決めてそれを間抜けな恋人に話したら
息を荒げて喜んで興奮するから
ニューヨークは刺激的でほんとに面白い場所だから
やったな麻衣!イエイ!とか言われたあたりで
全然おもしろくなかった私はガチャンと電話を切った
ぶっちゃけニューヨークなんて行きたくなくて
緑がうるうる茂ってる場所に行きたかったから
都会なんてこりごりだってのんびり過ごすんだって思ってて
相変わらずとぼけた恋人にはふざけんなといわんばかりで
まあやっぱり嫌だったら他の場所を探そうと
淡々とした感情しか抱けずにとりあえずやってきた
外国にいく理由なんて答えはひとつだね
雨のなか傘もささずにぶらぶらしていていいなんて
なんてらくちんだから
いい匂いがかわるがわる立ちこめる場所
顔はみえないくらいの暗めの場所がいい
どこか別のセカイに行ったみたいな匂いがいい
それでココロが裸になるならなおいい
美しい場所でなければいけない水もきれいなほうがいい
ずっと目をつむって黙ってても文句をいわれなくて
そうして深く深く息を吸ったら見えるもの
いい匂いがしておしゃれなほうがいい
そんなにも広くないほうがいい
必要なスペースがあればいい
電気もほんとうはいらないだろう蝋燭の光があるから
音楽は朝おきたときから眠ったあとまでずっと流して
絶対にセンスはいいもので息をすったときに一緒に
流れ込むくらいリラックスできるもので
たまには踊ってもいい
好きな人といてもいいでもひとりでいる方が多くてもいい
いい匂いがして夜は暗くて昼は明るいほうがいい
優しい場所
そこだけの時計が動いてそこだけのペースで
うつろに流れてゆく穏やかな場所
わたしだけの
そうとっておきの
それがわたしの好きだということ
下向いたり前向いたりして雨の中
立ち並ぶバーやカフェ
おしゃれなら良きかなの店々の間を通り抜けて
10代の時に戻ったようだった
人々も騒音も汚い町並みも
ここは嫌いじゃない
感覚だけで歩く
自分の本能を信じてそれだけで見抜く
人人人人毎日くたくたになるまで歩く
研ぎすまされてゆくこの手で選びとるセンス
耳心地のいい君の声に酔いしれる
淘汰されてゆく感情
次第にくっきり浮き上がる光と陰と
信じる力と判断するちから
眼光と和らいでゆく
甘くて可愛くて淡白で格好もいい方がいい
とっても優しくていい
見通す力はちっとも怖くなくてそれは選びとるちから
もっと透き通るためのちから
トントンと肩をつたう雨のリズムが一瞬ゆるんだそのときに
ほら見上げたら
目の前で白い粒に変わってゆく
コマ送りにスピードが落ちる
歩く足がすくむほどに止まってしまうほどに
夢でも見ているような数秒間
雨が雪へとかわる瞬間
魔法にかけられる
どうして海外にゆくかって?
傘をささずに歩くと
雨がほら
雪にかわるかもしれないでしょう
理由はそう
そんなくらい。
世界中からひとが集まってくる訳が
何となくだけど解る夜
そのうち惚けた恋人に
”悪くない町だ”って結構すきだって言ったならば
そしたらそのうちもういちど手を繋ぐこともあるのだろうか。
そうニューヨークで
もちろん。
一緒に歩いていたら途中で雨が雪に
かわったりして。