イタリア男は
サスペンダーをしていた
イタリア男はランチに招待してくれて
水色と赤のチェックのエプロンをして
早速ワインを開けながら
ちゃちゃちゃっと
トマトとニンニクとオリーブオイルに
3色のエリケ*をワサッと入れただけのパスタと
レタスにチーズを切って入れて
バルサミコとオリーブオイルと塩だけで味をつけたサラダを
用意した
わたしがはたらくマクロビオティックとかなんとやらの店では
乳製品もつかわなければ
トマトは軽く害とまでされているので
自分で料理することはもう殆どなかった。
でも
そこで供された
あまりにシンプルなその昼食が
どうしてかこうしてか
あまりに美味しくて
あまりに幸せな時間であったので
わたしは帰りにスーパーで
普段なら絶対買うことのない
にんにくとトマトを買って
家路につくのだった。
いまのところ、
わたしが最高に美味しいと感じるものは何かと言えば、
皆が絶対オススメとうたう人気のあるベジタリアンの店とか
ましてやザガット*で満点の評価のあるファンシーなレストランよりも
なによりも
「誰かがわたしのために作ってくれた料理」なのだ。
100人分の料理を普段こうして日々作っていると、
誰かが自分だけの為に作ったものが100倍幸せになるのかも。
わたしは怪訝な顔で、イタリア人に訊いた。
「イタリア男は全員サスペンダーをしているのか?」と。
*エリケ [Eliche] (螺旋)
ソースが絡みやすいように深くねじれているパスタ
(エリケ・トリコロール)
[Eliche Tricolori]
トマトとほうれんそうで色付けした3色のエリケ
*ザガット
ニューヨークのレストランの格付けシステム