ここは、ニューヨークなんだろうと思う。
手を繋いで歩く。
私は、アジア人なんだろうと思う。
日本人と、日本語を話す。
ここは、外国なんだろうと思う。
歌を歌う。たまに英語を話す。
ここは、私の街で、わたしはたぶん、
日本からやってきて、
ここは、アメリカなんだろうと思う。
風を受けて、景色の見渡せる高台まで階段を上がって振り向く。
谷の向こう側には、私が生活するアパートと、並木の緑と、静かに夏をまっている雲間。
私は、昔のようにどこかに飛びたいと思う事はもうなくなって
家族や友人をいまこの場所から感じている。
新しく触れるものは減ってゆき、肌になじむものばかりが増えてゆき、
好きな人々と気ままに会って、好きなものを食べて、眠る。
わたしは、ここに生きていて、あまり難しいことはないように思う。
とても単純で、いいのではないかと思う。
泣いて、笑って、怒って、喜んで、悲しんで、楽しくて、面白い。
ちょっと申し訳ない気もするが、難しいことは他の人に任せることにした。
わたしは、ただ、ここにこうしているだけで、
なんとなくそれだけでいいような気がしている。
スーパーで買物をして、ぐちゃぐちゃに机の上に食べ物をならべて、
だらだらと朝までハナシをする。
気づいたらその辺りで眠り、曇り空の明るくない朝日の中で目覚めて
何度かキスをして、ご飯を炊く。
とても大きなことが変わったようで、何ひとつ変わらないようで、
宝物とかゴミなんてのは、どっちも同じようなものなんではないかと思う。
わたしは日本人で、ここは多分日本のようで、
食べてるものは相変わらずみそ汁とごはんで、毎日は流れてゆく。
大切なものがひとつ増えた気もするし、明日消えてなくなることもきっとある。
なんてことはない。
出会い、近づき、離れ、別れ、また出会い、繰り返す。
わたしは、相変わらずシゴトで疲れてぐったりし、
恋人と同じ電車にのって帰る。
わたしたちは、ここニューヨークに暮らす、ニホンジンな気がしている。
毎日一緒にいたら、喋る量が減った代わりに、
手をつなぐようになっている。