外国での暮らし

手ぶらのふたり

07/31/2009

newyork

「なんも、ない。」

「どこも、行きたくない。」

 

それが答えだった。

 

本当に不思議なもので。
手放せば、手放す程、何もいらないと思えば思う程、
手のなかにあるものは広がり大きく豊かに膨らんでゆく。

わたしたちは今、無限に続く海の上にいて、あっちには昇る朝日とそっちには沈む夕陽。
行き先は、言うまでもなく決まっておらず、怖い事は、ひとつもない。
何故かというと、わたしたちには何もなく、そして
何もいらないと思っているからなのだった。
失うものがひとつもないという状態ほど、美しい強さはない。
わたしはたぶん、空に近づいていて、とにかく荷物を下ろす作業を続けている。
彼は、最初から手ぶらでいるので、重たいその箱を広い海へ放り投げるのを
一緒になってものすごいスピードで手伝ってくれる。
未来などは、はじめからどこにもなくて、明日は来たらラッキー程度で、
こうして朝目覚めて横に眠る誰かを抱きしめて、

パンが焼ける匂いがしてきて、
第一声は「しあわせぇ」が漏れる。

 

苦しい瞬間、無理矢理荷物を蹴り上げる。
全力キックで、裸になる。
そうしたら、笑いはとまらなくなっていた。

この街には、確かに、面白い人間も集まってくる。
皆なにかしらやっていて、なにかしらもっていて、会う人会う人から毎日多くを学ぶ。
そして訊ねられた。

「まいさんは、何する人なんですか。」
そして、間髪入れずに出た答えが、「何も、ない。」だった。
そこには本物の自由があり、答えた瞬間背中がゾクっとした。

好奇心の旺盛な人が多く、また訊ねられた。
「今は、どこの国に行きたいですか。」
考えた。

インドも行きたいし、もちろん韓国も大フィーバー、アフリカも
イスラエルももちろんフィンランドもていうか世界中?
世界一周して出た答えは、
「どこも、いきたくない」だった。
なんか、ほんとに、どっこもいきたくねえなあ、と思った。

 

ほんの少し前までは、確かに色々あった。
やりたいことも、プライドも、いきたい場所も、目指す理想も。
今は、びっくりするほどなくなった。なにひとつ。
好きなことや、興味のあることは、もちろんなくなるどころか日を追うごとに増え続け、
時間は足りないし笑いは止まらないし、うずうずしっぱなしだけれど
彼らとの付き合い方が完全にスイッチしている。
全部、死ぬほど大切で、全部死ぬほど好きなのに、全部この身の上には必要なく、
1秒後、地球が滅亡したとしても、それすらも愛おしい。

 

 

 

荷物は、少ない方がいい。
わたしのポケットには、いつもの帳面と、細めのペン。
i-podは置いてゆく。この声で歌うことを覚えた。
彼のポケットには、煙草とオイルライターと、
アイスクリームを買うためのぐちゃぐちゃの1ドル札が数枚。
クォーターとダイムがちゃらちゃら音を立てている。

今夜も手ぶらで、一駅分だけ歩いて
Stupid subwayに2人手をつないで飛び乗る。

 

 

 

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