外国での暮らし 経験

ニューヨークで育つ

01/23/2011

年末に日本へ帰り、またnyに戻って、一週間が経った。
降ったり止んだりしている雪。
白いセントラルパークは、静か。

 


 

わたしは始めたばかりの仕事にすぐ根をあげた。
新しくオープンするveganの店の、マネージャーだった。

 

”うまくいかなかったよ。やめることにしたよ。”

と恋人に報告した。

 

わたしは彼がどんな人間か、だいたいわかるのは
わたしと同じような感覚を持っているというだけのはなしだ。
だから、まさか、わたしのこの報告に、そんなこと言われるなど
想像もしていなかった。

わたしなりに、約一ヶ月もの間考えて仕事場に戻りハナシをして、
実際にやってみて、そして出した決断を、誰かにとやかくいわれようが、
どうしようもない。少しでも油断したら足下を救われそうな状態を
ただ保つのに精一杯だったわたしの
頭は、一瞬まっしろになった。

 

”なんで、その条件でやめるかなあ。
わかるよ、その気持ちも、きめたことも。
でもおれも同じだよ。
こっちに来て、死ぬほどイヤなおもいを、何度、何度したことか。
死ぬほど腐った奴らに、どれほど傷つけられたか。
それでも、歩き続けなかったら、誰が自分の面倒をみる?”

 

彼が私になにか真剣にそうやって伝えようとしているとき、
まるで彼自身に話しかけているかのようにすら見えることがある。

 

 

同じ時期に、スタートを切って、ひとりも知っているひとがいない
この場所で、それぞれ着実にこの場所に根をはろうとしてきた私達。
だから、彼が帰ってくるなり説教じみたことを言いだして、
それでもそれが私を傷つけようとしているわけじゃないことも
痛いほどよくわかった。

わたしたちがたまに会うときに、そんな真面目な話をしたことは
一度もなかったから、だからわたしは、皆おなじように感じていたんだ
ということをリアルに知って、驚いた。

ましてや、いつだってマイペースでぼうっとして、
歌を歌うかワインを飲んでいるようにしか
見えなかったイタリア男だから尚更に。

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それぞれ地球のばらばらの場所から
このニューヨークという場所に辿り着いて、まっさらなノートに
ひとつづつ足跡を付け始めて約2年。

走って迷ってぶつかって、出会って見つけて救われて、
もがいて泣いて底まで落ちて、それでも好きで、此処にいる。

 

何十種類もの人種の中で、文化のなかで、違いに戸惑いながら
間違いを重ねて傷ついて学んで、そうして、めちゃくちゃに離れたハンデを
必死で埋めて行くように、みんな、暮らしているのだ。

それはアジア人のわたしであっても、
ヨーロッパ人の彼であっても同じであった。

 

 

自分が選んだその道に、当然不満を言うつもりなどない。
こうした誰もがもつ外に出したくはない裏側の辛さよりも、
喜びと光に満ちた何者にも代え難い経験が山ほどあるから、
だから続けられる、そしてその裏側の部分を辛いと思った事など
実際は一度もないのかもしれないとさえ思う。

 

”ねえ、ここ、好き?すごい今更だけどさあ。”

と訊ねてみる。
”あっはっはっは。好きじゃなかったら、いないだろ。”

 

”自分は、簡単な人間じゃないよ。
だから、出会う人みんな、ココロを開くのがとても難しい。”

ぽつりぽつりと、彼は漏らす。

確かな経験は、私たちを知らず知らずに成長させる。
それぞれの性格は千差万別だが、それでも生まれ育った国や文化が違う
人々は、想像も絶するほどの価値観を持ち合わせていて、
その中でわたしたちは濾されては時間をかけて育つ小さな結晶のようだ。

 

 

ある日一緒に働いた、オランダ系、
自分より5つくらい若い学生の女の子。
彼女の純粋さが、私を救うどころかそのせいで傷ついたような気になったのは、
私が当時同じように感じていたキラキラを、
計算しつくされたようなそのイノセントさを
もう自分が持ち合わせていないという決定的な証拠をつきつけられたようだったからだ。

それでも、それはわたしがこの場所で、色んな価値観に囲まれて働き学んだ
結果でもあり、仕事上での現実や厳しさを知った上で、

笑えなかったことはわたしが新しく持ち合わせることになった
また別の種類の純粋さに違いない。

 

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”今は、ものすごく慎重に、身のまわりに置くものを選んでいるから、
だから、こういう一皿のスープとか、”君”とか、
自分をちゃんと幸せにしてくれるものだけに囲まれてるよ。”

 

わたしが、この場所で、山ほど出会ったものの中で、
どうしても守りたいものが、ほんの、少しだけある。

その中の一つが、その恋人であった。

 

今年は、足るを知ること、と書いた。
わたしは今年は、もうすでにこの手にあるものを
ほんとうに本当に大事に育てたいと思っている。

 

身体をすこしづつでいいから鍛え、一秒でも長い呼吸が出来るようになることや、
この上っ面だけで喋れるような適当な英語を、また1から学ぶ。
そして、彼の海みたいな腕のことをただ信じて、
ゆっくりとお互いのことを知って、
そして守ってゆけたらと思う。

 

ニューヨークというこの場所が、
わたしたちを、生かし、育てている。

 

 

 

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