少し遅れて3度目の、夏が来た。
ニューヨークの冬は、合計4回経験したが、決して慣れることはなく
いつでも容赦ない厳しさをわたしに見せた。
今年の冬は雪もとても多く、刺すような寒さも一入(ひとしお)で
永遠に続くのではないだろうか思うほどの暗さの中を低い場所で彷徨った。
それでも、やっとこさ訪れたこの初夏の清々しい空の下を歩くと
世界全体が宇宙より祝福を受けているようで
ああニューヨークに住んで本当に幸せだと
全てのつらかった記憶は真っ白に消されてゆくのだった
アジアの蒸し暑い、ほんのすこし苦しさを含んだような夏も
確かに情緒があるような気がしてそれはそれで好きだが
このすっかりすっぽり裏表の存在しないひたむきな陽気さは
まぎれもなくこの地に住む全員の特権
最も大きな贈り物のひとつだと思う。
ニューヨークで初めての夏は
恋人と共に一日一日を笑いころげながらすごし
2度目の夏は
離れた恋人と繋がったまま新しい生き方を探し続けていた
そして3度目の夏
わたしはここに、
ひとりでいる。
物理的な意味でのひとりではなく
こころの内で何かを求めつづけていた長い期間を経て
正々堂々と今この自分の存在をただ受け入れ
誰かのためではないまぎれもないわたし自身のために生きてゆくということを知った今
ようやくわたしは立派に、ただひとり歩こうとしている。
そんな在り方はいまだかつて知らなかった。
いつでも私は恋の中に生きていて
愛を自分の外に相手に探し求めていて
でも遂に
それが大きな誤りであったことを知り
そして準備は少しづつ、整ってゆくのだ。
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今わたしはもういちど学校に戻るための準備をしている
もっともっと知りたいことは今、10年前に何の意識もなく選んだ科目
”ひとのこころ”についてで、
そのときはまさか二度とその場所に帰ってくるなど想像もしていなかったけれど
まじめに学校に行ったことなど一度もなかった私がかいた卒業論文のテーマ
”恋愛”
そしてわたしはこれから
そこをもっともっと深く掘り下げてゆくことを楽しみにしている。
食べることと、愛することが何より好きなわたしは、
食べる術をこの数年必死で習得しようとしていた。
わたしは結局、何を得たかと言えば自分がどれほど食べるのが好きか
ということがわかったとかその程度なのだが、
神様は、わたしを次の段階にちゃんと運んだのだ。
まっすぐに、これからも、生きていきたい。
まっすぐに、これからも、愛していきたい。
そんな風に今おもう、初夏の夕暮れのニューヨーク。
爽やかな空と緑の間をてくてくと歩きながら
幸せをかみしめた土曜日の朝
火照った身体を横にする昼寝を経て
ゆっくりと夜ご飯をこしらえてお茶を飲む。
ニューヨークの初夏と、
わたしと。
Néné B.C. in New York City