外国での暮らし

初めての待ち合わせ

10/25/2011

ド近眼のその男が 旗じるしにかけている

眼鏡ではなく
コンタクトレンズを入れて現れたのは その初めての待ち合わせと 3度目のデート
覚えている限り その二回である

 

 

ーーーーーー
運命の携帯メールの週末が明け

翌日の月曜日の夜であった
14丁目の 地下鉄の前で ヨガを終えて向かう私を 彼は待っていた
初めて会った日から数えて3日後

ぶっちゃけその彼はどんな顔をしていただろうかと
見つけられなかったらどうしようと 私は 文字通り

緊張で鼻血が出そうなまま
待ち合わせ場所に向かった

 

彼は 私のありがた迷惑な 妄想上の姿と ほとんど誤差無くそこに立っていた
眼鏡をかけていなかったので 一瞬迷ったが 彼に違いなかった
人通りの絶えぬ メイン通りの交差点の 地下鉄の入り口の前で
世界の動きなどまるでお構いなしに

ただ姿勢よく直立して 日本語の本を読んでいた

 

わたしは とりあえず ひたすら 平静を装い
「えっと、また会えて嬉しいです、」と
英語でいうところの “I’m glad to see you again.” を
直訳しただけのような奇妙な社交辞令的挨拶を口走りつつ、

彼の横を歩いた。

 

さあ何食べようか、と話ながら 私は(元)職業柄

相手がどんな食の習慣があるのかを
尋ねずにはいられず、質問攻めにした。
”何が好き?食べられないものは?アレルギーとか、和食?
甘いものは?普段は料理するの?”

こんな具合である。

そして期待を遥かに裏切る返答

「うーん、好きなもの? なんでもータベルけどー、

おにぎーり、…とか?」

 

 

ズキューーーーーーーーン!!!!!!!!!(打ち抜かれた音)
お、お、お、おにぎりときたかーーーっっっっ

それは反則技だろーーー(心の声)
得意だぜーーーっっっ(心の声2)

 

 

か、か、か、かわいすぎる。
そして初対面の悩殺を上回る私のハートは再度打ち抜かれ、
(気分はその少年の胸ぐらを掴んで)おにぎりなんて、
私が、このお姉さんが、(もうこの際 お母さんが)毎日握ったげるからっっっっっっ
と天国にでも上ったような気持ちであった。

 

 

 

 

ーーーーー
そのひとは、きれいな顔をした、小柄な男の子だった。
いくつかの問答のなか、彼はまっすぐな目をして、
”日本で、教えたいんだよね。日本語で、仏教を。” と言い切った。

 

臆もせず、毅然と放たれたその言葉に、

正直ショックを受けて
”きみは?君の夢は?”とすぐさま返された私だったが、まごついて言葉に詰まったまま
いい加減で流されてきただけの自分のことを 恥ずかしいと感じさせるほど

彼のやりたいことには 一切のブレののない潔さがあって
わたしはその年下の男の人を

ただただ 純粋なうらやましさとか
嫉妬の混じる羨望ような気持ちとか 複雑な気持ちを交えながら

見るしかなかった

 

彼は彼自身のことを とてもよく知っているように見えた
まだ なんというか 未完成な繊細さを持ち合わせているにも関わらず
例えば大乗仏教のお経について興奮しながら話すときは 既に教授の顔で
わたしはその時も こういうひとが 教えるために 生まれてきたんだろうと
思ったものだ

 

日本に留学したときの話や
家族の話 大好きなことの話や 世界の中の自分たちの話
二人の共通点や違うところ
まだ暖かさの残る秋の夜に わたしたちは公園のベンチで
水の音と川辺の風と行き交う人々を共有した
彼は ニュージャージー出身だったので
その夜ニューヨークの明るい空に散った都会特有の淡い星を見上げながら
ボクの故郷の星は本当にすごいから いつか見せてあげるね。と言った

 

わたしの頭は まだまだ火照ったままで

熱があるような感じが続いて
帰り地下鉄の駅まで歩く間に その少年は尋ねてくれた
”美術館は、好き?”

わたしはものすごい勢いで頷き また訳の分からぬ
自分がいかに美術館とか図書館とかいう場所が好きかということについて
鼻息を荒く熱弁する姿に

彼は笑いながら
”じゃあ次は 美術館だね”と誘ってくれた

わたしは前回電話番号を聞かれたときと同じく
心のなかで
ガッツポーズを決めるのであった

 

 

 

ーーー

外国で暮らしてしばらくになる

すると 他人との距離の取り方や 挨拶の仕方は

外国仕様に慣れてきて
例えば フランスでは ほぼ初対面のニンゲンにでも
異性であれば両頬にキスが当たり前だったりしたし
こちらで言えば 適度に話し込んだくらいの相手であれば

ハグを交わすのは普通

 

 

そしてその夜 別れ際 わたしたちは駅で向かい合い
”えっと、それでは” 的な くすぐったい戸惑いの中で

握手をした
わたしが

”えっと、握手?” と笑うと

”え!日本じゃ、握手もしないのが普通でしょ?”と
彼は真面目な顔で言った。

 

 

 

”ハグはちょっとまだ早い気がするから…”

そう言った彼のことを
(やっぱりこのひと変わってるなあ)と思いながら

笑い続けている私に
最後

彼は付け加えて
その夜 帰って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――
ちなみに これは もっともっと、
後々のはなし

コンタクトレンズの理由というものが
明らかになったのは

 

キッチンで 料理をする私を その少年が 後ろから抱きしめて
キスの嵐が始まったとき

 

ねじの緩んだ彼の眼鏡は 床に落ちる

そして してやったりと言わんばかりの

「 ほー らー ね ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

”もし君のことを何とも思っていなかったら、

多分とっくに抱きしめてるとおもう、
じゃ。”

 

 

 

 

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