家族を見送ってから、わたしは自分の帰りのチケットをわざと買わなかったことを、自分でも知らないふりをした。
自分で帰る日を、自分で決めるんじゃなくて、勝手に運命が動いてわたしをどこかに連れて行ってくれればいいのにとずっと、そう思っていたから。
いく場所もお金もなかったわたしは、ひとりになってそのまま親友の家に向かった。
部屋中の植木は、わたしがいなかった時間に乾いて、雑草が生えたりしていたけど、まだ枯れてはいなかった。
だだっ広い部屋に、ジェニーと妹のミシェルが見えて、
数日ここに残ろうかと思ってる。と言いかけてから、「本当は数週間かもしれない」
とそうつけ加えた。
わたしはそれからどこに向かうか、大所帯の家族がいる田舎に行って、毎日果物やら野菜の写真でも撮っていれば、幸せかもしれないと
一瞬そう思ったけど、多分そうじゃなくて、この世界の、国とか、時間と場所自体から放り出されたところに常駐したいだけなのかもしれない、とそう思った。
それは、「自分には帰る場所などない」と感傷的になるのとは違って
「この世界にどこでもない場所」を確かに望んでいるとおもえば、いろんなところにつじつまが、いく。
ひとはいつも、わたしのことが好きだったと思う。
それはきっと、わたしが飛行機にのって空の上にいるときに、心地が良いように、わたしが雲と同じような存在だと
知っていたからかもしれない。
わたしはどこにもいないけれど、
この身体はいまは、この世界のどこかにいて、
いつも、帰りの飛行機のチケットを無くしてしまって
どこか知らない場所に彷徨っているような人生が、とても好きだなと
そう思う。
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