しずかに、濡れて、
気を失っているところに
むこうがわから声が聞こえる
「愛してるよ」
と二回聞こえた。
静かに、泣きにいったから
今日は彼は、怯えていなかった。
たったひとりの自分の最愛の母親が
365日中300日くらい泣いている姿をみて育った彼は
不幸だろうか
滲む視界の向こうに、子不幸ものの自分の姿が浮かんだ。
優しく、落ち着いて、
いちどだけそばにきて、トントンと優しくわたしの胸をたたいた。
なんてことはない様子で
明るく「いいよー」と言う。
重なった手の中を、開き、
彼から自由になることを
今日ようやく誓う
そして彼もまた、わたしから自由になり
ほんとうの幸せを願うことを、誓う
手をつないだことなど、あったろうか?
やさしいきもちで、彼の幸せを願ったことは?
手を開き、反対方向に遠ざかるふたりの間には
息子がいた
そのままふわっと上に上がっていって
まるで天使のようにふたりの姿をにこやかに見つめて
一ミリもそこには恨みつらみがなくてただ
おろかなわたしたちを
そっと救いにきたかのように。
血を分けた子供の
つながった糸のことを
いっしょう切れぬことのない糸と
そしてまた、すべてはひとつであるということを
想い
わたしはまた、気を失った。
目をさますころには少し
からだは和らいで
いつもどおり、彼を公園に誘った。
No Comments