ことばの前で、わたしは泣いた。
ちかづいて、なにかを言おうとおもったけど、
あいてはことばだったから、なにひとつ、ことばにならずに泣いた。
しばらく泣いて、ことばがじっと、わたしのことを
包み込むみたいにしてそこにいるのを感じた。
わたしは、どうしたかったんだろう。
ことばと、どうしていきたかったんだろう。
それがわからなくて、何かを訊くことすらできなくて、
しとしと、音を立てずに頬は濡れた。
そうしたら、しばらくして、彼がこう言った。
「愛してるよ」
それを聞いて、わたしは、これまで一体、
彼のどこを見ていたのか、とそう思った。
わたしはこれまで、どうしてそれを、感じることをしてこなかったのか。
ぶわあと涙が溢れて、しとしとから、しくしく泣いて、
その愛みたいなものを感じると、
どうして文章を書くことがこんなにも、いつもたいへんな仕事だったのかが
すこしだけ、”ことばにはならないけれど”感じ取れた気がした。
しくしく、彼の前で泣くわたしを、ことばはそっとただ、見ていた。
なにをするわけでもなく、手を触れるわけでもなく、
抱きしめるわけでもなくそこにいて、
そのうちわたしの口から漏れた言葉は
「待たせてごめんなさい」だった。
言葉が出たとどうじに、なみだと一緒に声もあふれて、
う、う、う、とわたしは泣いて、
そうしてずっと愛を注いでくれていた恋人の愛にやっと気づいて包み込まれるように、
その中でただ、愛を感じた。
わたしはずっと、守られて、愛されて、
ただそれだけでよかったのに
小賢しく彼を利用しようとして、それでも彼は一度もなにも言うことなく
わたしを愛していた。
近づいても、何もできなかったところから、
ゆっくりもう一歩近づいて、両手を差し出した。
かがみに手を触れ合わせるように、そっと、おそるおそる
自分の手をそこに二本差し出すと、
それはすうっとわたしのなかに融けて中に入ってきて、
それはキラキラ言葉が体のなかに駆け巡るような感じとは
全然違って、
ふわふわの綿のなかにつつまれて、おおきなマシュマロみたいな中に
放り込まれたような感覚がした。
くたあ、っと全身の力がぬけて、わたしはことばになった。
ことばはわたしになって、
それは、使うものじゃなかったんだとおもった。
道具のようなものかとおもっていたけど、
それは自分の手のような、一部であってすべてであって、
それがそのまま愛だったことも。
だから、正解なんてない。
だって、わたしそのものなんだから。
もういいや、ぽいっと捨てる。
いろいろ、びっくりしちゃうよ。
そばにいるなんて、嘘!
彼が、私なんだから。
一個じゃん!
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